Friday, July 28, 2006

 

情報公開は難しいと外務省=日本フィリピンEPA(経済連携協定)で外務省と話し合い=

脱WTO草の根キャンペーンは2006年7月26日、かねて申し入れていた事項を軸に日比EPAについて外務省と話し合いを持ちました。以下はその報告です。

外務省側は経済局の担当者4名が、1時間程度、脱W側の質問に答えた。質疑の詳細は以下に譲って、質疑を通して考えさせられたことを書きたいと思う。

一つは、情報の公開性についてである。外交交渉ではありがちなのだが、行政は交渉過程の情報を明らかにしたがらない。外務省のホームページでは、JPEPAの情報は二年前のままである。「交渉の一方だけが交渉過程の情報を漏らすことはできない」、「相手国の政治勢力が現体制を倒すために利用するおそれがある」というのがその理由である。

6月のWEF対抗シンポで来日したアジアのオルター・グローバリゼーション運動家も、同じ悩みを語っていた。かれらとのミーティングでは、ねばり強く情報を引き出していくことと、国際的に情報を共有しあっていくことを確認し合った。フィリピンの活動家は、野党が情報公開を求めて裁判をおこした自国の例を挙げながら、野党議員と連携して情報を引き出すという提案をした。

もう一つは、収奪の構造がいかに再生産されるかについてである。脱W側は、看護師と介護士の移動の自由化で、フィリピン国内の医療&福祉環境に悪影響を及ぼすのではないかというフィリピンの市民運動の懸念を話した。これに対して外務省側は、フィリピン政府がそうした懸念を訴えたことは一度もない、交渉相手から出てこない訴えに対応することはできない、と答えた。外務省としては、外交交渉のルールに忠実に従っているだけなのであるが、それが結果として医療&福祉の収奪の構造を再生産していることを思い知らされた。
 
外務省側は、フィリピンの小さなバナナの関税のみを優先的に下げている理由を話した。大きなバナナは、アメリカの多国籍企業が生産していて、この門戸を開放してもフィリピンの小農の利益にはならないからだそうである。事実確認の後にあらためて評価を下すべきであろうが、この例は、交渉担当者たちが収奪の構造を認識している場合、政策決定のあり方が変わりうることを示しているのではないか。かれらにこの構造を知ってもらうべく、これからも持続的に意見をぶつけ、情報を入手していく必要を感じた。

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日比EPA外務省申し入れの報告(06年7月26日)
【参加者】
・脱WTO側は、大野和興ほか5人+保坂展人衆院議員の秘書の大久保青志さん。
・外務省側は、外務省経済局の唐みち子さん(経済提携課南東アジア経済提携協定交渉室)、松本健介さん(自由貿易協定・経済提携協定室)、北村暁さん(経済提携課)、大山雅弘さん(国際貿易課サービス貿易室)の四人。

【日比EPAの現状とスケジュール】
・当初は7月23日、日比友好50周年記念日に調印したかった。努力したものの、中身を詰めきれなかった。しかし可能ならば、年内の調印をめざしたい。
・どこで交渉が行詰っているかは、お話できない。交渉の一方だけが交渉過程の情報を漏らすことはできない。
・フィリピン政府はEPAが自国に利益をもたらすことを確信しているものの、国内では意見が割れているようである。
・WTO交渉が中断した。今後の予定は、いまだ未定である。しかし日本は通商立国なので、多国間貿易交渉だけでなく、二国間も進めていきたい。
・情報公開に関しては、なかなか難しい。二国間交渉では、こちらから情報を漏らすことで、相手国の政治勢力(主に野党をさしているらしい)が現体制を倒すために利用するおそれがあるからである。

【人の移動について】
(1)フィリピン人の看護師、介護士の労働条件
・ガイドラインを厚生労働省が作成しているので、そちらに一任されている。大臣官房の国際課に尋ねるとよいと思う。
・厚労省は日本人の有資格の看護師、介護士と同じ労働条件を考えていると思う。正規労働者の条件を想定しているはずである。
・受け入れ人数に関しても、厚労省が担当である。ただ人数は、協定には書かない。基本的な枠組みはフィリピン側も合意している。
・フィリピン人は「研修コース」、あるいは「研修&就労コース」を選択することになる。後者を選んでインターンで働く場合でも、日本人と同じステータスを享受できる。
・研修は、フィリピン人看護師、介護士を育てなくてはならないので、認定を受けたある程度の規模の病院で行われる。
・在留資格は「特定活動」として、最長で3年である。

(2)フィリピンの医療、福祉体制への悪影響
・外交交渉は、相手国が国内の意見を集約しているという前提でなされている。交渉過程でフィリピン側からは、国内の医療への悪影響に関してまったく言及されていない。
・こうした状況では、こちら側から交渉相手の国内のことに言及できない。内政干渉になってしまうおそれがある。基本的には、フィリピン政府が考えるべきというスタンス。

【日本の農林水産部門への影響について】
・日比の貿易の9割は、工業製品である。工業品の場合、日本から部品を輸入し、フィリピンで組み立て、最終工程を残して日本へ輸出する。したがって両国の間には互換関係がある。フィリピンにとっても利益があるであろう。
・貿易の残りの10%は、農産品である。2年前に交渉はすべて終っている。フィリピン側からは砂糖や鶏肉市場の門戸開放の要求が強い(エビやバナナはそれほどではない)。
・日本側としては、国内業界の意思を確認しながら、守るべき箇所は守り、開放できる箇所は開放している。
・バナナに関して、フィリピンの小さなバナナの関税は優先的に下げるが(10年で撤廃)、大きなバナナはあまり下げない。なぜなら大きなバナナはアメリカ資本(ドールなど)が生産していて、ここの門戸を開放してもフィリピンの小農の利益にはならないからである。
・水産物や林産物は、環境保護や資源管理に留意しながらやっている。

【工業製品の輸出自由化がフィリピンの国内産業に及ぼす影響について】
・日本企業の進出は、フィリピン側から要求されている。日本製品の輸出は、現地の消費者を喜ばせている。現地に組立工場ができれば、雇用の創出にもなる。
・技術移転は投資の拡大とともに進むであろう。とはいえ、現地生産体制の自立が進んでいるかに関しては、測りかねている。
・日本企業がフィリピン国民の労働権を侵害するケースもあるかもしれない。だからEPAでビジネス環境を整備して、協議メカニズムを作る必要がある。いままでは公式の問題解決ルートがなかったので、それを設けて透明性を確保していく。
・現地の日本企業からは、労働運動弾圧の要求は出されていない。主な要求は、インフラ整備、治安維持、廃棄物処理施設などである。

【サービス貿易と民営化について】
・基本的にはGATSの枠組み内でやっている。フィリピン政府が経営している公共部門を議論の遡上にのせることはしていない。
・日本企業はガス、水道などの経営には興味がないようである。しかもフィリピン憲法は、外資制限が厳しいので、外国企業がサービス部門に入っていくのは難しい。
・教育部門に関しては、40%まで外資の所有が認められている。

(以上、安藤丈将)

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