Thursday, February 22, 2007

 

連続学習会第5回 「アメリカを変えよう!」

2月13日、総評会館で、脱WTO/FTA草の根キャンペーンの連続学習会が開かれました。五回目の今回は、AMネットの川上豊幸さんに来ていただき、「アメリカを変えよう!アメリカのNGOは何を言っているか」というテーマで学習しました。( 安藤丈将)

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 川上さんは、先ごろ翻訳が出版された、ジョン・ガバナー、ジェリー・マンダー編『ポスト・グローバル社会の可能性』という本の内容要約をしました。このテキストの著者には、バンダナ・シバやウォルデン・ベローなどの名前も挙がっていますが、主にアメリカのNGO活動家が多く含まれています。かれらは各国のNGOの論客から構成され、アメリカに拠点を置く「International Forum on Globalization(IFG)」というシンクタンクに所属しています。

 テキストの前半は、企業支配の強化、それを支えているIMF・世銀・WTOに対する批判が展開されています。本書の特徴は、これらの制度に対する批判に加えて、後半部では具体的な代替案についての議論が繰り広げられています。
まずは「コモンズ」です。生命と生存の根本にかかわる環境・文化・知識・公共サービスは、私有化、独占されてはならないという原則を強調しています。次に「サブシディアリティ(地域主権主義)」です。これは「すべての決定は、決定を下せる統治機構のうち、一番下位レベルで下す」という原則です。具体的な政策としては、地産地消、小規模農業、地域企業支援などを挙げることができます。

 企業活動を監視して、規制を課す機関として、テキストは次のものを挙げています。まずブレトンウッズ機構を廃止(WTOは縮小、世銀・IMFは廃止委員会を設ける)して、国連貿易開発会議(UNCTAD)を活用します。そして新たなグローバル機関として、国際破産裁判所で債務帳消し計画を練り、国際金融機関で途上国に融資し、国際環境機関で環境協定の実施を支援するといった構想が披露されています。

 質疑では、まずアメリカ全体でIFGの主張がどのように見られているのか、という質問が出されました。西部地方ではグローバリゼーションの問題性は広く共有されており、IFGは決して奇異に見られているわけではなく、NGOの間で信頼を得ているそうです。

 次の質問は、中南米の反米州貿易協定の動きをどう見ているかというものでした。テキストには入っていないが、かれら自身運動のネットワークをもっており、つながりはあるであろう、という答えでした。さらに、オルタナティブとしてのUNCTADの可能性を評価しているが、第三世界=非同盟諸国という基盤がなくなった現在、こうした可能性の評価の妥当性はどうか、という質問も出ました。カンクンでもNGOとUNCTADの情報交換がされるなど、両者は近い関係にある。確かに現実のUNCTADの影響力は落ちているが、ほかに有力な可能性が見られない以上、ひとつの選択肢として考えるべきではないか、と話されました。加えて、アメリカのNGOはアメリカ政治自体の変革をどう考えているのか、という質問も出ました。これにはIFGの主たる関心は、企業の規制に向けられていると答えました。

 次回は3月13日(火)の18時半から総評会館で、化学物質問題市民研究会の安間武さんに来ていただき、「FTAで有害廃棄物の輸出促進!日本のリサイクル資源の国際市場の形成促進政策―3Rイニシアティブ、自由貿易協定、非関税障壁の回避」というテーマで学習をします。ぜひご参加ください。
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脱W第4回連続学習会 「どうするWTO―世界のNGO(オックスファムとフォーカス)からの提案」

脱W第4回連続学習会は「07年1月16日に開かれました。今回は、「どうするWTO―世界のNGO(オックスファムとフォーカス)からの提案」というテーマで、オックスファム・ジャパンの山田太雲さんが「北」の代表的なNGOであるオックスファムについて、アタック・ジャパンの秋本陽子さんが「南」の代表的なNGOとしてフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスについて紹介してくれました。

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【オックスファムの活動】
  まず山田さんが、「グローバルな貧困・不平等とWTO/FTA―オックスファム・インターナショナルのビジョンと戦略」というタイトルで、報告をされました。最初に山田さんは、本日の報告がオックスファム・インターナショナルの見解ではなく、個人的見解と断ったうえで、オックスファムの活動を話してくれました。

オックスファムの活動の三本柱は、緊急人道支援、長期開発支援、アドボカシー・キャンペーンで、特にオックスファム・ジャパンは、貧困・人道問題に関する日本政府の政策変更を求めることを主たる活動にしているそうです。

  活動のよりどころは人道主義に置かれ、政治的中立が基本方針です。様々な模索の末に現在では「権利ベースアプローチ」を採っています。それは「貧困者=権利保持者」が「政府・企業・NGO=義務履行者」に自らの生存の権利を要求するという関係を基礎にしています。

そして貧困者の権利要求や途上国政府の義務履行を制限する構造を変えるため、オックスファムは先進国政府や国際機関に対して、アドボカシーをおこなっているそうです。

 オックスファムにとっての貿易問題とは、「持続的な生計に対する権利」の達成に障害となっている経済的不正義の一環です。貧困の下で暮らす人々が食糧と収入の安全保障を獲得し、安定した賃金雇用を手にし、尊厳の確立された労働条件で働き、利益を得て、エンパワーされることが目的です。

 そこで貿易に関する現状ですが、残念ながらこうした目的とはかけ離れた状況にあり、富裕国と企業の支配が貧困者を苦しめています。特にWTOドーハ開発ラウンドでは、「相互主義の軽減」や「特別かつ差異ある待遇」といった途上国の関心事項は後回しされ、先進国政府の攻勢的利害が強力に推進されています。ただしラウンド開始前に比べて、途上国は交渉能力をつけてきています。そして内部のロビーイング(insider)と外部の抗議行動(outsider)が途上国政府を励ましています。

 ドーハ・ラウンドの凍結、自由貿易協定(FTA)へのシフトは、途上国の貧困者にとって深刻な事態だそうです。WTOのなかでまがりなりにも合意された事項も、FTAでは先進国有利に変えられてしまっています。投資、政府調達、ドーハ宣言を無視したTRIPSルールが盛り込まれる一方で、国内支持の改革・削減、ダンピングなどは盛り込まれていません。しかも一度合意した自由化は、後戻りできないのです。二国間協定によって複数の交渉が同時並行で進むと、途上国の少ない交渉担当官の能力を超え、結果として慎重な分析や議論を経ずに締結される可能性もあります。

 そこでオックスファムの戦略ですが、究極の目標は、開発と貧困削減を促進する貿易協定、そして現在の直接目標は、FTA、WTOプラスのルールを強要する協定の阻止におかれています。開発を目的とした地域内貿易交渉をめざし、FTAへのオルタナティブの動きを支援しています。グローバル化した経済のルールを規定すべき政府は、主権国家制度を前提としています。したがって、各国の合意により多国間の貿易ルールを決める国際機関は必要であり、それは現在のところはWTOしかないので、ドーハ・ラウンドの精神に立ち返った形でのラウンド交渉の再開を求めているそうです(Bad deal よりはSlow round)。ただし交渉内容は、凍結時点からではなく、「途上国の利害を中心に据えた」議題設定からおこなうよう提案しています。

【フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスの活動】
 以上の山田さんの報告の後に、秋本さんがフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスについて紹介してくださいました。バンコクほか、アジアの三箇所に事務所をおくフォーカスは、オックスファムに比較すると小規模ですが、充実した調査で知られています。フォーカスの主たる活動は、運動を作り出すというよりも、調査研究にあります。調査活動を通じて運動に関する提案をおこなっています。すなわちフォーカスは、WTOに関する知識をほとんど持たない途上国の農民や労働者に対して、情報提供をすることを仕事にしているそうです。

 ここで秋本さんは、WTO香港閣僚会議のケースを例に出しました。05年12月のWTO香港閣僚会議に向けて、その年の1月の世界社会フォーラムでWTO交渉に関する意見交換をしました。翌月には今度は香港で、現地の活動家と情報交換をし、香港の社会運動への支援を表明しました。さらに8月にはバンコクで、11月には釜山で、具体的な打ち合わせをして、12月の香港WTO閣僚会議に結集させました。フォーカスはこのプロセスに一貫して寄りそって、動員を支援したそうです。

 次に貿易の現状とWTOドーハ・ラウンド、FTAに対する評価を話してくださいましたが、この点に関してはかなり山田さんの報告と重なる点が多かったです。途上国に不利なコンセンサスを止め、大国や企業の支配から自由な多国間貿易ルールを作るという点は、両者に共通する主張でした。オックスファムとの重要な違いは、多国間貿易ルールをWTOの外部に作るべき、とする点です。「Bad deal」ではなく「No deal」というのがそのスローガンです。こうした「Bad deal」を推進するイデオロギーを「新自由主義的グローバリゼーション」と名づけ、新自由主義ではない、もう一つのグローバリゼーションをめざすことの必要性を唱えました。ただし多国間貿易ルールの形は、まだ見えていないのが現状であるともつけ加えました。

【フロアとの討論】  まず「新自由主義的グローバリゼーション」をどう考えるか、そのケーススタディとして、香港閣僚会議での日本政府による「開発パッケージ」をどう評価するかという質問が出ました。

 秋本さんは、「開発パッケージ」=貧困対策の名目の地球規模の市場化の推進であり、貧困者の生活を改善しないと指摘しました。山田さんも、「開発パッケージ」が、貧困の構造(貿易ルール)を問題にしていないし、交渉戦術としての側面も強いので、問題があると話しました。

 続けて山田さんは、世界中にはすでに市場経済に組み込まれているにもかかわらず、十分な保証を受けていない人びとの今日の生活のために、現金収入を得る必要があるのではないか、と述べました。ただし貿易を拡大すれば自動的に貧困者は潤うのかといえば、そうではなく、中間業者や企業の搾取構造を同時に変えなくてはならない、と留保をつけました。

 次の質問者は、貿易ルールを規定する多国間の機構が必要であるという見解が、オックスファムもフォーカスも同じである、とあらためて確認をしました。そしてオックスファムに対しては、WTOの機構上の問題点をどう考えるか、フォーカスに対しては、多国間貿易の具体像をどう描くのか、という質問を出しました。

 まず山田さんは、WTOにはルール、決定作成のプロセス、大国の支配に問題点があるが、その問題点は、機構上にあるのではなく、運営の仕方に問題があると考えているので、より公平な運営をめざしてアドボカシーやキャンペーンをおこなっている、と答えました。

 秋本さんは、オルタナティブはまだ具体的ではないかもしれないが、あるべき貿易ルールについては議論されているので、今後に議論が具体化されていくだろうという見通しを話しました。

 さらに開発NGOでの活動経験の豊富な参加者から、NGOは現場だけに活動を限定せず、社会変革まで視野に入れる形で実践すべきではないか、という提案が出されました。

 これに対して山田さんは、オックスファムは社会改革をめざさないわけではない、と答えました。新自由主義がよいか、悪いかと聞かれれば、「悪い」と答えるが、オックスファムの主たる関心は、貧困解決のために現状で何ができるかということにあるので、新自由主義自体が善か悪かのような議論からスタートはしない、と述べました。

 最後にブラジルやインドのような途上国のなかの大国が台頭してきているなかで、途上国の多様性をどう考えるか、という質問も出ました。これに対してはフロアとのやり取りで、一国内部で利害が多様化している状況では、国民国家単位で議論をすることに限界があるのではないか、セクターごと、階層ごとに議論していくこともできるのではないか、との議論がされました。

  山田さんは、WTOに関していえば、途上国の多様性を強調するのは、あまり生産的ではない、と注意を喚起しました。その理由として、現在のWTOの焦点は、ドーハ・ラウンドで途上国が突きつけられた要求に対して、先進国が応えるかどうかに置かれているからである、と主張しました。

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