Friday, June 23, 2006
海外ゲストの報告=脱WTO六月行動報告・その4=
六月行動で私たちはタイ、フィリピン、韓国で、幅広い領域でさまざまな分野の人々、組織をネットワークしてグローバリゼーションに対峙して運動している運動体からゲストスピーカーを招きました。それぞれの国でいま暮らしと動労の現場で何が起こっているか、そのなかで人々はどのような運動に取り組んでいるか、事前に出していただいただいた三人のゲストスピーカーの提起を紹介します。
タイにおけるFTAの動向とその影響
キンコン・ナリンタラク(タイFTAウォッチ・Thai Action on Globalisation : TAG)
◆タクシン政府およびFTA
現在のタイ政府は、建築、アグリビジネスおよびテレコミュニケーションといった産業に後ろ盾された政府です。彼らは、投資および金融部門の開放により起こった97年の経済危機を忘れたかのように、国際貿易と投資の推進による経済開発をますます推進しています。それと共に自由貿易協定(FTA)の交渉が進められていますが、FTAとは、二国間であろうと多国間であろうと、“発展途上国”の貿易交渉力を弱めるものに他なりません。
◆タイFTA交渉例:中国との場合
中国はアセアン(ASEAN)加盟国ではないものの、タイ・中国のFTAは、1993年以来設立されたアセアン自由貿易圏(AFTA)の一部として、交渉が進められています。
2003年に始められた自由化交渉は2004年に終了し、2005年には圏内関税縮小が開始され、2010年にはアセアン6カ国(タイ、フィリピン、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ブルネイ)と中国の関税縮小が、2015年には新アセアン4カ国(カンボジア、ラオス、ビルマおよびベトナム)の関税縮小が達成される予定です。また、それとは別に、前倒し実施(アーリーハーベスト)と呼ばれる枠組みのもと、生物、肉、乳製品、動物製品、樹木、野菜および果物などの品目は、2004年1月1日から関税縮小が開始され、2006年以内には関税ゼロにまで引き下げられる予定です。
しかしながら、タクシン首相率いるタイ政府は、アセアン自由貿易圏(AFTA)交渉下での、タイ・中FTA交渉では時間がかかるとみなし、2003年2月の中国訪問での朱鎔基首相との会見以来、中国との二国間交渉を公式に開始しました。その結果、 アーリーハーベストのリスト中、例えば果物および野菜は、2003年10月1日以降、貿易関税をゼロとすることが決められました。
◆タイ小規模農家の崩壊
タイ農業経済オフィスによると、中国からの野菜・果物輸入自由化の9か月後には、その輸入量は180%増加しました。タイへ輸入される主な野菜はニンニク、玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもで、他方、輸出品の90%はタピオカですが、輸入価格が輸出価格をはるかに凌いでいます。
果物に関しても、タイの主な輸入品はりんご、西洋ナシ、ブドウ、オレンジなどで、主な輸出品は乾燥ロンガン(竜眼)、新鮮なロンガン、ドリアンおよびザボンなどですが、輸出が78%の成長に過ぎないのに対し、輸入が伸びて、これもタイの142%の赤字です。中国から輸入された野菜や果物は、タイ産の平均3分の1ほどの価格なので、中国産の商品がタイの市場に浸透するのも当然です。
2003年10月1日の貿易自由化施行直後に、タイの農業・協同組合省は、中国から圧倒的安価な農産物が市場に流入したことを理由に、ニンニク、赤玉ねぎ(シャロット)、および玉ねぎの作付面積を縮小する計画を発表しました。農業経済オフィスによれば、中国との市場自由化前は、平均25.64バーツ/kgだった乾燥ニンニクの価格が、自由化後は18.35バーツ/kgに落ち、2004年には15-16バーツ/kgに低下しました(1バーツ約3円)。
タイのニンニクの作付面積はかつて2万8千ヘクタールありましたが、自由化が始まった後、農業・協同組合省による補助金制度もあって、8千ヘクタールに減少しました。補助金として、農民は、ニンニクの代わりに多年生樹木を植えれば1ライ(0.16ヘクタール)につき2千バーツ(約6千円)が支払われ、他の野菜に替えれば1ライにつき500バーツ(約1500円)だけが支払われるとされました。
低価格で生活苦のニンニク農家は、2005年、政府に対し、乾燥ニンニクの価格として1キロ30バーツを保証するように請願しました。それに応じて、通商省は県の通商担当に対し、要求価格を保証するようにとの通達を出しましたが、しかし実際は、2005年は18バーツだけを保証され、残りの12バーツは次年度にニンニク及び他の作物(赤玉ねぎ、玉ねぎ、レイシ、ロンガン、タンジェリン)の作付けを放棄したものに対し支払われるとされました。これでは、農民には将来はありません。
果物に関しても、価格は低迷を続け、果物生産者の状況は今もますます悪くなっています。タイ政府は、国内で果物の消費促進キャンペーンなどを行っていますが、その一方で、市場原理の問題に取り組まず、少数の輸出業者による果物市場の独占を容認しています。要するに、タイ政府は、工業とサービスセクターがFTAから利益を得るために、小規模農民を犠牲にしたのです。
◆オーストラリアからの乳製品の輸入
タイのオーストラリアからの乳製品の輸入は、全乳製品輸入合計の60%を占めます(約100億バーツ/年)。タイでは、約15万人の酪農業者がいるとされていますが、しかしこの自由化の流れの中で、彼らの生活もまた苦しくなっています。
約40年前に設立された酪農協同組合はタイで最も強力な協同組合です。1日約10時間は働かなければならないとはいえ、酪農家は生活に十分なお金を稼いでいます。なぜなら、それは国王陛下の意向によって独立独行の精神のもとに設立された組合だからです。しかしFTAによって、そうした組合が壊滅の危機にさらされています。牛乳の国内需要が1日4,000トンなのに対し、国内供給量は1日2,100トンです。タイの生乳の生産コストはアメリカ、デンマーク、オランダ(10-14バーツ/kg)とは競争できますが、オーストラリアとニュージーランドの生産原価は低く(6-7バーツ/kg)太刀打ちできません。EUやアメリカは農業補助政策を設けていますが、タイ政府は反対のことをしています。
国内で飼育されている約40万頭の乳牛への影響に加えて、FTA合意はさらに約5~600万頭の肉牛にも影響を及ぼすでしょう。タイではほとんどの農民は補助的収入として、また、土を有機的に肥沃にするためにも牛を育てています。しかし、オーストラリアからの安い肉牛の流入により、タイの持続可能な農業が破壊されようとしています。
◆小規模農家への影響のまとめ
FTA推進の理由として、タイ政府は、繊維産業やその他の特定の産業に加えて、農産物市場の拡大によって農業にも利益を与えるだろうと主張しています。しかし、中国との貿易自由化後、タイ国内市場では明らかに問題が起こっています。酪農家や牛肉飼育農家の問題が、政府の主張と現実とはギャップがあることを証明しています。FTAによりタイがより大きな農産物市場を確保したのは本当かも知れませんが、それから実際に利益を得るのが誰なのかという疑問が残ります。
農産物輸出の最大の問題は関税障壁ではなく、衛生および健康基準による障壁です。タイがFTA交渉を進めている日本、オーストラリアおよびアメリカなどの先進国は、輸入関税は最高5%と既に低い値です。これらの国のポイントは、衛生や健康基準、また環境基準が高いことです。タイでは既に禁止されたある種の農薬をまだ使用している中国でさえ、農産物の輸入時に、化学肥料の残留に関して非常に高い基準を課しており、タイの小規模農家にとっては対応が難しいのが現実です。
タイ・オーストラリアFTA協定に関連して、協定成立直後に、オーストラリアのクィーンズランド州とタイの多国籍アグリビジネスCPグループとの間で、果物パッケージングの技術協定が交わされました。CPのCEO兼常務取締役によれば、ザボン、マンゴスチン、ドリアン、ロンガン、レイシおよびタマリンドなどの果物のオーストラリアへの輸出は、(韓国、香港、フィリピンおよびEUなどの国々への輸出もあって)今後ますます成長するだろうし、クィーンズランドの主な輸入業者であるカーター・スペンサーと、作物プランテーションの基礎技術向上と研究のために協力していくつもりだそうです。
自由貿易協定締結後、中国への輸出増加が期待されていたロンガンは、果物への関税撤廃後も、その低迷する価格が回復する気配はなく、農民への利益は何もありません。それどころか、国内産業システムの慢性の腐敗と、中国における予想を超える市場規制のために価格は落ちるばかりです。さらには、かつては農民からロンガンを購入していた小規模の地元仲介業者が少数の大規模中国商人によって追い出されています。それらの中国商人は、タイ国内でロンガンの価格を押し下げて、且つ0%の関税で、彼ら独自の流通経路によって自国に売っています。政府が、タイ国内でのロンガン消費促進キャンペーンをどれだけ行おうと、小規模生産者の生計が改善することは無いでしょう。
最後に、タイの二大製品である鶏およびエビをみてみると、それは日本で確かに販売拡大の可能性があり、また、米国にも巨大市場の可能性があります。しかしこれらの輸出から最も利益を得るのは誰か、想像するに困難ではありません。タイの農業および小規模農民の将来はどうなるのでしょうか? もちろん、私たちは、まだ輸出のために生産することができるでしょう。しかし、作物の生産は大企業あるいは契約農業によってコントロールされ、小規模農民が生き残る道は無いでしょう。
ポリシー・スペースをめぐるたたかい
―新しい貿易の取り決めは、フィリピンの開発の選択肢をどう狭めるのか
ジョセフ・プルガナン(フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス)
世界貿易機関(WTO)で新たに始まった複数国間の貿易協定交渉は、開発と国際貿易から生じる利益のより公正な分配を約束して、2001年にドーハで始まった。ドーハ宣言によれば、(その交渉は)「(開発途上国の)ニーズと利害を作業プログラムの中心に据える。そして開発途上国、とりわけ後発開発途上国が、その経済発展のニーズに応じて世界貿易の成長の分け前を得られるよう、建設的な努力を続ける」 としていた。
しかし構成国がいわゆる開発ラウンドの幕引きに向けて動き出すにつれて、フィリピンのような貧しい国のための交渉議題が進められる可能性はなくなっていった。その交渉は開発の条件を整備して繁栄をもたらす代わりに、ポリシー・スペースをめぐるたえざる争いの場になった〔訳注-ポリシー・スペースとは、ある国家が自国の政策(関税率など)を自国で決定できる裁量の幅のこと〕。途上国は自らの開発目標の遂行のために国策を使用する権利を守ろうとしている。
フィリピンは、よい実例である。貿易交渉に関して言えば、フィリピンは戦術を用いる余地のほとんどない開発途上国である。私たちはほぼ20年間、実質的な関税率の引き下げになる一連のプログラムを実行してきた。そしてフィリピンは、WTOのもとで、あるいは二国間で、自由貿易協定(FTA)を交渉し続け、関税を減らして経済をさらに自由化することをめざしている。
WTO交渉における現在の提案は、農業、水産業を含む他の工業部門、さらにサービスのポリシー・スペースを実質的に侵食するであろう。新しい妥協は、拘束関税率と適用関税率をさらに減らし、工業製品の関税による拘束をさらに強め、国内でのサービスに対する規制を弱めるであろう。
合衆国とEUのような貿易超大国から出された交渉議題は、複数の戦線でポリシー・スペースに攻撃をしかけている。開発途上国は、それに対抗する提案を考え出し、ポリシー・スペースの侵食の効果を緩和する予防措置を講じてきた。
その交渉でのフィリピンの防衛的な態度は、最近フィリピンが参加することになったグループとこのグループから出された提案に明らかである。
農業では、フィリピンは開発途上国のG33の主要メンバーである。このグループは特別産品と特別セーフガード措置(SP/SSM)の規定を推し進めている。
NAMA(非農産品市場アクセス)では、開発途上国の柔軟性が戦線になっている。香港閣僚会議の前に、11の開発途上国からなるグループは、柔軟性を独立の規定として扱い、フォーミュラの議論から切り離すことを求めた。フィリピンはこのグループの一翼を担っている。
サービスでは、国内の規制に関する議論は、自由化の強力な推進を和らげている。一方では、外国サービス業者の国内市場への参入をうながすための規制緩和の諸要求があり、他方では、サービスの自由化を規制するための各国の権利がある。その議論は、この二つの議題をうまく両立させることをめざしている。最近のブラジルとフィリピンによる提案は、開発途上国が新しい規制を導入して、自国の目標を達成する権利を持っていることを再度強調した。
その取り決めに価値はあるのか?
構成国は農業とNAMAのモダリティに関する重要な期限である4月30日を守っていない。その期限が破られたことで、二種類の反応が生まれた。一般的に開発途上国は、不公平な取り決めの影響を再調査し、「開発」が交渉の軸であるべきとあらためて主張している。これによって、議論をさらに広げるチャンスを生かそうとしている。他方で、自由化攻勢で得をする諸国は、期限が守られなかったことを、交渉強化の合図と見ている。そして香港で達した合意からのさらなる「後退」を警戒している。
新たな期限に向けて、交渉は進められている。しかしながら、このいわゆる開発ラウンドなるものは、本当に推進する価値があるのかという疑問は残されたままである。
ドーハ・ラウンドから得られる利益と言われているものは、見積もり通りには実現しないかもしれない。最近のカネギーの研究の結論では、ドーハのシナリオがすべて実現したとしても、地球全体の収入は600億ドルに満たない。すなわちそれは、現在の地球全体の国内総生産(GDP)のわずか0.146%(1%の約七分の一)である。個々人の経済にもたらされる利益も小さく、実収入が1%を超えて上昇する のは中国のみである。加えて、その研究はこう結論づけている。「各国が貿易政策を変更するときに課される調整コストは、以前よりも不気味に立ちはだかっている」。
調整コスト
1995年のWTO結成以降に実施された貿易政策の変更は、途上国が懸念する少なくとも二つの主要な領域に損失をもたらしてきた。一つは収入の効果である。経済協力開発機構(OECD)の研究が報告するところでは、開発途上国は現在、1560億ドルの関税収入を得ている。国連貿易開発会議(UNCTAD)による予測によれば、この関税収入の基盤は、非農産品の関税が「スイス・フォーミュラ」のもとで削減される「野心的な」シナリオにおいては、41%まで下降するだろう。
加えてその研究の指摘によれば、低開発段階にある諸国は、自国のマクロ経済の安定を維持し(そのなかでも重要なのは、持続可能な財政である)、収入の減少が貧困削減、再分配、開発能力に及ぼす逆効果と対決している。
もう一つの懸念される領域とは、雇用の喪失である。東南アジアでは、NAMAに関する野心的な取り決めに伴う雇用の喪失は、非鉄金属(6.4%)、その他の工業製品(2.3%)、自動車(6.6%)、電気(1.7%)になると推測されている。
ドーハを疑う
ドーハ・ラウンドの楽観と開発の展望は、ゆっくりと疑いに取って代わられた。交渉の主要な領域のすべてで、開発の目標はさらなる自由化のための野心的な議題に席を譲ったように思われる。
ポリシー・スペースをめぐる議論が、開発についての議題の中心をなす。一方で開発途上国は、「開発ラウンド」の幕引きをすすめている。他方で、この交渉での防衛的な姿勢は、途上国が自らの開発の選択肢を拘束にかけ、自国経済に大きな犠牲を強いる取り決めに批判的であることを示している。
フィリピンのような開発途上国が、ドーハ・ラウンドの野心的な議題を撃退し、制限されたポリシー・スペースを守り、自ら開発の議題を要求することは、どれだけできるか。次の数ヶ月は、リトマス紙になるであろう。
【社会運動にとってのチャンスか? 多国籍企業にとってのチャンスか?】
報告:ビョン・ジョンビル(韓米FTA阻止汎国民運動本部)
☆ はじめに
2006年2月3日、韓国政府は突如として、アメリカとのFTA交渉を開始すると表明した。前USTR(米国通商代表部)のロブ・ポートマンは、韓米FTAの開始を歓迎して、次のように述べている。「今回の交渉は、この15年間すすめられてきた自由貿易交渉のなかで、最も重要な交渉となるだろう」と。この言葉は、財界からの広い支持によって裏打ちされている。韓米FTAはNAFTAと同じように、多国籍企業の利益を最大化する一方で、民衆の権利や生活を犠牲にする。
☆ いわゆる4つの事前交渉
FTA交渉に先だち、韓国政府はアメリカに自らの「真剣さ」をアピールすべく、事前に4つの新自由主義的アジェンダを遂行しなくてはならなかった。
1)2005年10月に、医薬品の価格にたいする規制を緩和すること。
2)2005年11月に、アメリカの輸入車にたいする排ガス規制を削減すること。
3)2006年2月に、アメリカ牛の輸入を再開すること。
4)スクリーン・クウォーター制度の規制を緩和すること。
これらは、韓米FTAがもたらす破壊的な結果を端的に物語っている。
☆ 暴露された韓国草案
私たちは韓米FTAがNAFTAと同じように、民衆に悲惨な結果をもたらすのではないかと危惧している。韓国政府はFTAによって雇用が生みだされ、貧富の差が縮まるだろうと公言している(これもNAFTAと同じ主張だ)。しかしながら、アメリカ政府がFTAで要求しているのは、韓国の市場を100%解放させることにすぎない。
私たちはFTAのことを「農民にたいするテロ行為(Farmer Terror Action)」と呼んでいる。なぜなら、FTAは韓国の最も重要な農産物である、米農家の保護を撤廃させるからである。アメリカ側のリーダーであるリチャード・クロウダーは、「FTAは例外を認めない」と述べている。アメリカ側の統計によると、FTA締結後、韓国の農業生産は、現在の45%まで減少する。このことは、韓国農民の半数が職を失い、都市貧困層となることを意味している。
また、韓米FTAは韓国の公共サービスを商業化し、私有化することにつながるだろう。1998年に韓米投資条約(BIT)交渉が行われたさい、アメリカ政府は韓国政府にたいして、公共部門(5つの例外を除く)における「外国資本への規制」を撤廃するよう要求した。この交渉は韓米FTAに引き継がれている。現在、そのターゲットとしてガスがねらわれていることは周知のとおりである。
もう一つ、FTAでターゲットとされているのが、医療の価格制度である。とくにアメリカの医薬品業界がもとめる価格制度が設定されることになる。
また、文化の多様性も危機にさらされる。FTAは韓国市場をハリウッドや巨大放送資本に譲りわたすことになるだろう。
FTAは民衆の利益ではなく、両国の多国籍企業の利益となるものである。というのも、FTAとは新自由主義的な政策を強化するものだからである。5月15日に発表された韓国のFTA草案は、このことをよく示している。その内容は、NAFTAとほとんど同じである。そこには、外国投資家のために政府の政策や決定をむしばみ、政府や民衆の権利を浸食するような内容がふくまれている。
☆ 東アジアにおいて、アメリカのヘゲモニーを強化するFTA
もう一つ、論点を追加しておきたい。韓国政府は2006年1月にアメリカ軍の「戦略的柔軟性」を受けいれた。FTAをつうじて、両国間の軍事同盟はさらに強力なものとなるだろう。そして、このことはアメリカの「対テロ先制」ドクトリンを正当化することになるだろう。
☆ 社会運動にとってのチャンスか? 多国籍企業にとってのチャンスか?
しかしながら、韓米FTAに向けた政府の動きは、韓国の民衆や社会運動にも新しいチャンスをあたえている。「韓米FTAに反対する韓国国民連合」という名のもとに、14以上の共同委員会(およそ300団体)が集結し、韓米FTAをストップさせるための共同行動を行っている。闘争をつうじて、これらの運動はFTAをストップさせるための経験や戦略を共有できている。そして、FTAばかりでなく新自由主義グローバル化をも超克できるようになる。FTAは社会運動にとってのチャンスなのか、それとも多国籍企業にとってのチャンスなのか?韓国民衆と社会運動は、その答えをださなくてはならない。
タイにおけるFTAの動向とその影響
キンコン・ナリンタラク(タイFTAウォッチ・Thai Action on Globalisation : TAG)
◆タクシン政府およびFTA
現在のタイ政府は、建築、アグリビジネスおよびテレコミュニケーションといった産業に後ろ盾された政府です。彼らは、投資および金融部門の開放により起こった97年の経済危機を忘れたかのように、国際貿易と投資の推進による経済開発をますます推進しています。それと共に自由貿易協定(FTA)の交渉が進められていますが、FTAとは、二国間であろうと多国間であろうと、“発展途上国”の貿易交渉力を弱めるものに他なりません。
◆タイFTA交渉例:中国との場合
中国はアセアン(ASEAN)加盟国ではないものの、タイ・中国のFTAは、1993年以来設立されたアセアン自由貿易圏(AFTA)の一部として、交渉が進められています。
2003年に始められた自由化交渉は2004年に終了し、2005年には圏内関税縮小が開始され、2010年にはアセアン6カ国(タイ、フィリピン、シンガポール、インドネシア、マレーシア、ブルネイ)と中国の関税縮小が、2015年には新アセアン4カ国(カンボジア、ラオス、ビルマおよびベトナム)の関税縮小が達成される予定です。また、それとは別に、前倒し実施(アーリーハーベスト)と呼ばれる枠組みのもと、生物、肉、乳製品、動物製品、樹木、野菜および果物などの品目は、2004年1月1日から関税縮小が開始され、2006年以内には関税ゼロにまで引き下げられる予定です。
しかしながら、タクシン首相率いるタイ政府は、アセアン自由貿易圏(AFTA)交渉下での、タイ・中FTA交渉では時間がかかるとみなし、2003年2月の中国訪問での朱鎔基首相との会見以来、中国との二国間交渉を公式に開始しました。その結果、 アーリーハーベストのリスト中、例えば果物および野菜は、2003年10月1日以降、貿易関税をゼロとすることが決められました。
◆タイ小規模農家の崩壊
タイ農業経済オフィスによると、中国からの野菜・果物輸入自由化の9か月後には、その輸入量は180%増加しました。タイへ輸入される主な野菜はニンニク、玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもで、他方、輸出品の90%はタピオカですが、輸入価格が輸出価格をはるかに凌いでいます。
果物に関しても、タイの主な輸入品はりんご、西洋ナシ、ブドウ、オレンジなどで、主な輸出品は乾燥ロンガン(竜眼)、新鮮なロンガン、ドリアンおよびザボンなどですが、輸出が78%の成長に過ぎないのに対し、輸入が伸びて、これもタイの142%の赤字です。中国から輸入された野菜や果物は、タイ産の平均3分の1ほどの価格なので、中国産の商品がタイの市場に浸透するのも当然です。
2003年10月1日の貿易自由化施行直後に、タイの農業・協同組合省は、中国から圧倒的安価な農産物が市場に流入したことを理由に、ニンニク、赤玉ねぎ(シャロット)、および玉ねぎの作付面積を縮小する計画を発表しました。農業経済オフィスによれば、中国との市場自由化前は、平均25.64バーツ/kgだった乾燥ニンニクの価格が、自由化後は18.35バーツ/kgに落ち、2004年には15-16バーツ/kgに低下しました(1バーツ約3円)。
タイのニンニクの作付面積はかつて2万8千ヘクタールありましたが、自由化が始まった後、農業・協同組合省による補助金制度もあって、8千ヘクタールに減少しました。補助金として、農民は、ニンニクの代わりに多年生樹木を植えれば1ライ(0.16ヘクタール)につき2千バーツ(約6千円)が支払われ、他の野菜に替えれば1ライにつき500バーツ(約1500円)だけが支払われるとされました。
低価格で生活苦のニンニク農家は、2005年、政府に対し、乾燥ニンニクの価格として1キロ30バーツを保証するように請願しました。それに応じて、通商省は県の通商担当に対し、要求価格を保証するようにとの通達を出しましたが、しかし実際は、2005年は18バーツだけを保証され、残りの12バーツは次年度にニンニク及び他の作物(赤玉ねぎ、玉ねぎ、レイシ、ロンガン、タンジェリン)の作付けを放棄したものに対し支払われるとされました。これでは、農民には将来はありません。
果物に関しても、価格は低迷を続け、果物生産者の状況は今もますます悪くなっています。タイ政府は、国内で果物の消費促進キャンペーンなどを行っていますが、その一方で、市場原理の問題に取り組まず、少数の輸出業者による果物市場の独占を容認しています。要するに、タイ政府は、工業とサービスセクターがFTAから利益を得るために、小規模農民を犠牲にしたのです。
◆オーストラリアからの乳製品の輸入
タイのオーストラリアからの乳製品の輸入は、全乳製品輸入合計の60%を占めます(約100億バーツ/年)。タイでは、約15万人の酪農業者がいるとされていますが、しかしこの自由化の流れの中で、彼らの生活もまた苦しくなっています。
約40年前に設立された酪農協同組合はタイで最も強力な協同組合です。1日約10時間は働かなければならないとはいえ、酪農家は生活に十分なお金を稼いでいます。なぜなら、それは国王陛下の意向によって独立独行の精神のもとに設立された組合だからです。しかしFTAによって、そうした組合が壊滅の危機にさらされています。牛乳の国内需要が1日4,000トンなのに対し、国内供給量は1日2,100トンです。タイの生乳の生産コストはアメリカ、デンマーク、オランダ(10-14バーツ/kg)とは競争できますが、オーストラリアとニュージーランドの生産原価は低く(6-7バーツ/kg)太刀打ちできません。EUやアメリカは農業補助政策を設けていますが、タイ政府は反対のことをしています。
国内で飼育されている約40万頭の乳牛への影響に加えて、FTA合意はさらに約5~600万頭の肉牛にも影響を及ぼすでしょう。タイではほとんどの農民は補助的収入として、また、土を有機的に肥沃にするためにも牛を育てています。しかし、オーストラリアからの安い肉牛の流入により、タイの持続可能な農業が破壊されようとしています。
◆小規模農家への影響のまとめ
FTA推進の理由として、タイ政府は、繊維産業やその他の特定の産業に加えて、農産物市場の拡大によって農業にも利益を与えるだろうと主張しています。しかし、中国との貿易自由化後、タイ国内市場では明らかに問題が起こっています。酪農家や牛肉飼育農家の問題が、政府の主張と現実とはギャップがあることを証明しています。FTAによりタイがより大きな農産物市場を確保したのは本当かも知れませんが、それから実際に利益を得るのが誰なのかという疑問が残ります。
農産物輸出の最大の問題は関税障壁ではなく、衛生および健康基準による障壁です。タイがFTA交渉を進めている日本、オーストラリアおよびアメリカなどの先進国は、輸入関税は最高5%と既に低い値です。これらの国のポイントは、衛生や健康基準、また環境基準が高いことです。タイでは既に禁止されたある種の農薬をまだ使用している中国でさえ、農産物の輸入時に、化学肥料の残留に関して非常に高い基準を課しており、タイの小規模農家にとっては対応が難しいのが現実です。
タイ・オーストラリアFTA協定に関連して、協定成立直後に、オーストラリアのクィーンズランド州とタイの多国籍アグリビジネスCPグループとの間で、果物パッケージングの技術協定が交わされました。CPのCEO兼常務取締役によれば、ザボン、マンゴスチン、ドリアン、ロンガン、レイシおよびタマリンドなどの果物のオーストラリアへの輸出は、(韓国、香港、フィリピンおよびEUなどの国々への輸出もあって)今後ますます成長するだろうし、クィーンズランドの主な輸入業者であるカーター・スペンサーと、作物プランテーションの基礎技術向上と研究のために協力していくつもりだそうです。
自由貿易協定締結後、中国への輸出増加が期待されていたロンガンは、果物への関税撤廃後も、その低迷する価格が回復する気配はなく、農民への利益は何もありません。それどころか、国内産業システムの慢性の腐敗と、中国における予想を超える市場規制のために価格は落ちるばかりです。さらには、かつては農民からロンガンを購入していた小規模の地元仲介業者が少数の大規模中国商人によって追い出されています。それらの中国商人は、タイ国内でロンガンの価格を押し下げて、且つ0%の関税で、彼ら独自の流通経路によって自国に売っています。政府が、タイ国内でのロンガン消費促進キャンペーンをどれだけ行おうと、小規模生産者の生計が改善することは無いでしょう。
最後に、タイの二大製品である鶏およびエビをみてみると、それは日本で確かに販売拡大の可能性があり、また、米国にも巨大市場の可能性があります。しかしこれらの輸出から最も利益を得るのは誰か、想像するに困難ではありません。タイの農業および小規模農民の将来はどうなるのでしょうか? もちろん、私たちは、まだ輸出のために生産することができるでしょう。しかし、作物の生産は大企業あるいは契約農業によってコントロールされ、小規模農民が生き残る道は無いでしょう。
ポリシー・スペースをめぐるたたかい
―新しい貿易の取り決めは、フィリピンの開発の選択肢をどう狭めるのか
ジョセフ・プルガナン(フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス)
世界貿易機関(WTO)で新たに始まった複数国間の貿易協定交渉は、開発と国際貿易から生じる利益のより公正な分配を約束して、2001年にドーハで始まった。ドーハ宣言によれば、(その交渉は)「(開発途上国の)ニーズと利害を作業プログラムの中心に据える。そして開発途上国、とりわけ後発開発途上国が、その経済発展のニーズに応じて世界貿易の成長の分け前を得られるよう、建設的な努力を続ける」 としていた。
しかし構成国がいわゆる開発ラウンドの幕引きに向けて動き出すにつれて、フィリピンのような貧しい国のための交渉議題が進められる可能性はなくなっていった。その交渉は開発の条件を整備して繁栄をもたらす代わりに、ポリシー・スペースをめぐるたえざる争いの場になった〔訳注-ポリシー・スペースとは、ある国家が自国の政策(関税率など)を自国で決定できる裁量の幅のこと〕。途上国は自らの開発目標の遂行のために国策を使用する権利を守ろうとしている。
フィリピンは、よい実例である。貿易交渉に関して言えば、フィリピンは戦術を用いる余地のほとんどない開発途上国である。私たちはほぼ20年間、実質的な関税率の引き下げになる一連のプログラムを実行してきた。そしてフィリピンは、WTOのもとで、あるいは二国間で、自由貿易協定(FTA)を交渉し続け、関税を減らして経済をさらに自由化することをめざしている。
WTO交渉における現在の提案は、農業、水産業を含む他の工業部門、さらにサービスのポリシー・スペースを実質的に侵食するであろう。新しい妥協は、拘束関税率と適用関税率をさらに減らし、工業製品の関税による拘束をさらに強め、国内でのサービスに対する規制を弱めるであろう。
合衆国とEUのような貿易超大国から出された交渉議題は、複数の戦線でポリシー・スペースに攻撃をしかけている。開発途上国は、それに対抗する提案を考え出し、ポリシー・スペースの侵食の効果を緩和する予防措置を講じてきた。
その交渉でのフィリピンの防衛的な態度は、最近フィリピンが参加することになったグループとこのグループから出された提案に明らかである。
農業では、フィリピンは開発途上国のG33の主要メンバーである。このグループは特別産品と特別セーフガード措置(SP/SSM)の規定を推し進めている。
NAMA(非農産品市場アクセス)では、開発途上国の柔軟性が戦線になっている。香港閣僚会議の前に、11の開発途上国からなるグループは、柔軟性を独立の規定として扱い、フォーミュラの議論から切り離すことを求めた。フィリピンはこのグループの一翼を担っている。
サービスでは、国内の規制に関する議論は、自由化の強力な推進を和らげている。一方では、外国サービス業者の国内市場への参入をうながすための規制緩和の諸要求があり、他方では、サービスの自由化を規制するための各国の権利がある。その議論は、この二つの議題をうまく両立させることをめざしている。最近のブラジルとフィリピンによる提案は、開発途上国が新しい規制を導入して、自国の目標を達成する権利を持っていることを再度強調した。
その取り決めに価値はあるのか?
構成国は農業とNAMAのモダリティに関する重要な期限である4月30日を守っていない。その期限が破られたことで、二種類の反応が生まれた。一般的に開発途上国は、不公平な取り決めの影響を再調査し、「開発」が交渉の軸であるべきとあらためて主張している。これによって、議論をさらに広げるチャンスを生かそうとしている。他方で、自由化攻勢で得をする諸国は、期限が守られなかったことを、交渉強化の合図と見ている。そして香港で達した合意からのさらなる「後退」を警戒している。
新たな期限に向けて、交渉は進められている。しかしながら、このいわゆる開発ラウンドなるものは、本当に推進する価値があるのかという疑問は残されたままである。
ドーハ・ラウンドから得られる利益と言われているものは、見積もり通りには実現しないかもしれない。最近のカネギーの研究の結論では、ドーハのシナリオがすべて実現したとしても、地球全体の収入は600億ドルに満たない。すなわちそれは、現在の地球全体の国内総生産(GDP)のわずか0.146%(1%の約七分の一)である。個々人の経済にもたらされる利益も小さく、実収入が1%を超えて上昇する のは中国のみである。加えて、その研究はこう結論づけている。「各国が貿易政策を変更するときに課される調整コストは、以前よりも不気味に立ちはだかっている」。
調整コスト
1995年のWTO結成以降に実施された貿易政策の変更は、途上国が懸念する少なくとも二つの主要な領域に損失をもたらしてきた。一つは収入の効果である。経済協力開発機構(OECD)の研究が報告するところでは、開発途上国は現在、1560億ドルの関税収入を得ている。国連貿易開発会議(UNCTAD)による予測によれば、この関税収入の基盤は、非農産品の関税が「スイス・フォーミュラ」のもとで削減される「野心的な」シナリオにおいては、41%まで下降するだろう。
加えてその研究の指摘によれば、低開発段階にある諸国は、自国のマクロ経済の安定を維持し(そのなかでも重要なのは、持続可能な財政である)、収入の減少が貧困削減、再分配、開発能力に及ぼす逆効果と対決している。
もう一つの懸念される領域とは、雇用の喪失である。東南アジアでは、NAMAに関する野心的な取り決めに伴う雇用の喪失は、非鉄金属(6.4%)、その他の工業製品(2.3%)、自動車(6.6%)、電気(1.7%)になると推測されている。
ドーハを疑う
ドーハ・ラウンドの楽観と開発の展望は、ゆっくりと疑いに取って代わられた。交渉の主要な領域のすべてで、開発の目標はさらなる自由化のための野心的な議題に席を譲ったように思われる。
ポリシー・スペースをめぐる議論が、開発についての議題の中心をなす。一方で開発途上国は、「開発ラウンド」の幕引きをすすめている。他方で、この交渉での防衛的な姿勢は、途上国が自らの開発の選択肢を拘束にかけ、自国経済に大きな犠牲を強いる取り決めに批判的であることを示している。
フィリピンのような開発途上国が、ドーハ・ラウンドの野心的な議題を撃退し、制限されたポリシー・スペースを守り、自ら開発の議題を要求することは、どれだけできるか。次の数ヶ月は、リトマス紙になるであろう。
【社会運動にとってのチャンスか? 多国籍企業にとってのチャンスか?】
報告:ビョン・ジョンビル(韓米FTA阻止汎国民運動本部)
☆ はじめに
2006年2月3日、韓国政府は突如として、アメリカとのFTA交渉を開始すると表明した。前USTR(米国通商代表部)のロブ・ポートマンは、韓米FTAの開始を歓迎して、次のように述べている。「今回の交渉は、この15年間すすめられてきた自由貿易交渉のなかで、最も重要な交渉となるだろう」と。この言葉は、財界からの広い支持によって裏打ちされている。韓米FTAはNAFTAと同じように、多国籍企業の利益を最大化する一方で、民衆の権利や生活を犠牲にする。
☆ いわゆる4つの事前交渉
FTA交渉に先だち、韓国政府はアメリカに自らの「真剣さ」をアピールすべく、事前に4つの新自由主義的アジェンダを遂行しなくてはならなかった。
1)2005年10月に、医薬品の価格にたいする規制を緩和すること。
2)2005年11月に、アメリカの輸入車にたいする排ガス規制を削減すること。
3)2006年2月に、アメリカ牛の輸入を再開すること。
4)スクリーン・クウォーター制度の規制を緩和すること。
これらは、韓米FTAがもたらす破壊的な結果を端的に物語っている。
☆ 暴露された韓国草案
私たちは韓米FTAがNAFTAと同じように、民衆に悲惨な結果をもたらすのではないかと危惧している。韓国政府はFTAによって雇用が生みだされ、貧富の差が縮まるだろうと公言している(これもNAFTAと同じ主張だ)。しかしながら、アメリカ政府がFTAで要求しているのは、韓国の市場を100%解放させることにすぎない。
私たちはFTAのことを「農民にたいするテロ行為(Farmer Terror Action)」と呼んでいる。なぜなら、FTAは韓国の最も重要な農産物である、米農家の保護を撤廃させるからである。アメリカ側のリーダーであるリチャード・クロウダーは、「FTAは例外を認めない」と述べている。アメリカ側の統計によると、FTA締結後、韓国の農業生産は、現在の45%まで減少する。このことは、韓国農民の半数が職を失い、都市貧困層となることを意味している。
また、韓米FTAは韓国の公共サービスを商業化し、私有化することにつながるだろう。1998年に韓米投資条約(BIT)交渉が行われたさい、アメリカ政府は韓国政府にたいして、公共部門(5つの例外を除く)における「外国資本への規制」を撤廃するよう要求した。この交渉は韓米FTAに引き継がれている。現在、そのターゲットとしてガスがねらわれていることは周知のとおりである。
もう一つ、FTAでターゲットとされているのが、医療の価格制度である。とくにアメリカの医薬品業界がもとめる価格制度が設定されることになる。
また、文化の多様性も危機にさらされる。FTAは韓国市場をハリウッドや巨大放送資本に譲りわたすことになるだろう。
FTAは民衆の利益ではなく、両国の多国籍企業の利益となるものである。というのも、FTAとは新自由主義的な政策を強化するものだからである。5月15日に発表された韓国のFTA草案は、このことをよく示している。その内容は、NAFTAとほとんど同じである。そこには、外国投資家のために政府の政策や決定をむしばみ、政府や民衆の権利を浸食するような内容がふくまれている。
☆ 東アジアにおいて、アメリカのヘゲモニーを強化するFTA
もう一つ、論点を追加しておきたい。韓国政府は2006年1月にアメリカ軍の「戦略的柔軟性」を受けいれた。FTAをつうじて、両国間の軍事同盟はさらに強力なものとなるだろう。そして、このことはアメリカの「対テロ先制」ドクトリンを正当化することになるだろう。
☆ 社会運動にとってのチャンスか? 多国籍企業にとってのチャンスか?
しかしながら、韓米FTAに向けた政府の動きは、韓国の民衆や社会運動にも新しいチャンスをあたえている。「韓米FTAに反対する韓国国民連合」という名のもとに、14以上の共同委員会(およそ300団体)が集結し、韓米FTAをストップさせるための共同行動を行っている。闘争をつうじて、これらの運動はFTAをストップさせるための経験や戦略を共有できている。そして、FTAばかりでなく新自由主義グローバル化をも超克できるようになる。FTAは社会運動にとってのチャンスなのか、それとも多国籍企業にとってのチャンスなのか?韓国民衆と社会運動は、その答えをださなくてはならない。